Glenn
May 22, 2006, 13:27
I brought this up in another thread with Mikawa Ossan, and I just found it, so I thought I would post it here for everyone's enjoyment and also for reading practice. It's (from what I can tell) an excerpt from a larger work by 遠藤周作. Two notes: さかい is Kansai-ben for から, and I was told that a paraphrase for 何や間違うておられるんと違いますか is 何か勘違いしていませんか.
ミス・ユニバースの審査
遠藤周作
「ミス・ユニバースの審査員になって頂けませんか」
そういう電話を受けた時、目がまわるほど忙しいにかか わらず引き受けたのは、持病のどうにもならぬあの好奇 心のためである。幸か不幸か、私は劇団「樹座」の入座 審査に立ちあった以外、審査員というものを今日まで一 度も経験したことはない。しかも世界各国-----西洋、アフリカ、南北アメリカ、東洋から選ばれた美女 を審査すると考えると、これはこたえられない気がした 。
「承知しました」早速、返事をした。家人はまたか、と いうように絶望的な顔をした。
審査日は本当に忙しい頃にあたっていた。実は樹座の公 演が四月四日に都市センターホールで行われるから、このところ連夜、稽古場でおどった りはねたり猛練習をしている。自分一人だけ休むわけに いかない。スタッフに事情をうちあけ、それは嫌ぁな顔 をされながらミス・ユニバースの審査のある大阪にとんだ。 私はまあ仏蘭西語 (フランスご)ならカタコトしゃべるが英語はダメだ。機 内で、審査の時やパーティーの際、何語で質問しようかなどと思い悩んでいた。ミス ・フランスやミス・イタリー、ミス・スイスぐらいなら何とか質問できるだろう。
大阪について、出迎えの人に車内でこのことを質問する と、相手はキョトンとして、
「日本語で結構ですねん」
「は? 日本語がみんな、わかるのですか」
「それは……全員、日本の娘ですさかいね。何や間違う トおられるんと違いますか」
早とちりの私は、この審査を世界各国の美女審査と考え ちがいをしていたのだ。本当は日本代表をえらぶ審査だ ったのである。
「チェッ」私は舌打ちをした。今更のように自分の愚か さに腹がたったのである。
Pホテルについて部屋で手を洗うと、すぐに彼女たちと 懇談する夜のパーティーの広間におりた。ガヤガヤと雑踏する会場のなかに、九 州地区、中国地区、四国地区、近畿地区という目じるし の旗がたち、そのテーブルのまわりに候補者のお嬢さんたちがいる。
私は審査員の義務として彼女たちに話しかけようと思い ながら(と言うのは、このパーティーでの観察結果も採点の際に考慮してください、と言われ たからだ)、テーブルのそばまで行って、すぐ離れてしまう。いい年齢を しているくせに恥しいからである。離れては近より、近 よっては話しかける勇気なく、自分でも阿呆みたいだと 思っていると、向うのほうでも変なオッサンがうろうろ していると思ったのか、はじめはツンとスマした顔をし ていた。しかし、私の胸にぶらさげている審査員のリボ ンに気がついた瞬間、いっせいに十姉妹 (じゅうしまつ)のようにこちらを向いてニッコリ笑っ ス。
私に笑ったのではない。私の胸のリボンに笑ってくれた のである。その笑いは-----きわめて人工的なもので、国際線のスチュワーデスが客に酒の注文をとる時つくるあの笑いである。そ して警視庁の婦人警官が絶対にうかべない笑いでもある 。(この皮肉、わかって頂けますか)
ミス・ユニバースの審査
遠藤周作
「ミス・ユニバースの審査員になって頂けませんか」
そういう電話を受けた時、目がまわるほど忙しいにかか わらず引き受けたのは、持病のどうにもならぬあの好奇 心のためである。幸か不幸か、私は劇団「樹座」の入座 審査に立ちあった以外、審査員というものを今日まで一 度も経験したことはない。しかも世界各国-----西洋、アフリカ、南北アメリカ、東洋から選ばれた美女 を審査すると考えると、これはこたえられない気がした 。
「承知しました」早速、返事をした。家人はまたか、と いうように絶望的な顔をした。
審査日は本当に忙しい頃にあたっていた。実は樹座の公 演が四月四日に都市センターホールで行われるから、このところ連夜、稽古場でおどった りはねたり猛練習をしている。自分一人だけ休むわけに いかない。スタッフに事情をうちあけ、それは嫌ぁな顔 をされながらミス・ユニバースの審査のある大阪にとんだ。 私はまあ仏蘭西語 (フランスご)ならカタコトしゃべるが英語はダメだ。機 内で、審査の時やパーティーの際、何語で質問しようかなどと思い悩んでいた。ミス ・フランスやミス・イタリー、ミス・スイスぐらいなら何とか質問できるだろう。
大阪について、出迎えの人に車内でこのことを質問する と、相手はキョトンとして、
「日本語で結構ですねん」
「は? 日本語がみんな、わかるのですか」
「それは……全員、日本の娘ですさかいね。何や間違う トおられるんと違いますか」
早とちりの私は、この審査を世界各国の美女審査と考え ちがいをしていたのだ。本当は日本代表をえらぶ審査だ ったのである。
「チェッ」私は舌打ちをした。今更のように自分の愚か さに腹がたったのである。
Pホテルについて部屋で手を洗うと、すぐに彼女たちと 懇談する夜のパーティーの広間におりた。ガヤガヤと雑踏する会場のなかに、九 州地区、中国地区、四国地区、近畿地区という目じるし の旗がたち、そのテーブルのまわりに候補者のお嬢さんたちがいる。
私は審査員の義務として彼女たちに話しかけようと思い ながら(と言うのは、このパーティーでの観察結果も採点の際に考慮してください、と言われ たからだ)、テーブルのそばまで行って、すぐ離れてしまう。いい年齢を しているくせに恥しいからである。離れては近より、近 よっては話しかける勇気なく、自分でも阿呆みたいだと 思っていると、向うのほうでも変なオッサンがうろうろ していると思ったのか、はじめはツンとスマした顔をし ていた。しかし、私の胸にぶらさげている審査員のリボ ンに気がついた瞬間、いっせいに十姉妹 (じゅうしまつ)のようにこちらを向いてニッコリ笑っ ス。
私に笑ったのではない。私の胸のリボンに笑ってくれた のである。その笑いは-----きわめて人工的なもので、国際線のスチュワーデスが客に酒の注文をとる時つくるあの笑いである。そ して警視庁の婦人警官が絶対にうかべない笑いでもある 。(この皮肉、わかって頂けますか)